
「広告業界って何をしているところ?」「広告業界の今の動向は?」など、就活生が知っておきたい最新の業界事情を解説。業界で活躍している主な職種はもちろん、具体的な仕事内容や強みになり得るスキルも併せて紹介します。
広告業界のビジネスモデルとは?
広告業界とは、消費者に向けて広告を発信したいお客さま(クライアント)に対して、ニーズに合った「広告枠」と「広告そのもの」を提供している業界です。基本的には、以下の流れでビジネスが進みます。
【広告業務の流れ】
- テレビや新聞、雑誌、屋外スペース、Webページといった「広告を掲載できるメディア」を持つ企業(媒体社)から広告枠を仕入れる
- クライアントの要望を踏まえて、広告効果が期待できる広告枠を提案する
- クライアントのニーズに合った広告を制作する
- メディアに広告を出稿し、消費者にアピールして購買などのアクションを促す
広告業界の中で上記の流れを担っているのが、広告代理店です。広告代理店は取り扱う媒体や役割に応じて、以下の5つのタイプに分類できます。
(1)総合広告代理店(広告会社)
総合広告代理店(広告会社)は、テレビや雑誌、新聞といったマスメディアをはじめとするさまざまな広告媒体を取り扱う企業です。クライアントの広告活動をトータルで支援しており、広告戦略の立案から制作、媒体の選定・購入、効果測定まで、広告活動全般を包括的にサポートする役割を担います。
代表的な企業例は、以下が挙げられます。
- 株式会社電通グループ
- 株式会社博報堂DYホールディングス
(2)専門広告代理店
専門広告代理店は、新聞、雑誌、屋外広告、ネット広告といった特定の媒体を中心に広告を扱うことで、ノウハウ・強みを蓄積し、得意としているメディアで専門性を発揮する企業です。出稿媒体が決まっているクライアントからの需要が高い広告代理店といえます。
代表的な企業例は、以下が挙げられます。
- 株式会社サイバーエージェント
(3)ハウスエージェンシー
ハウスエージェンシーは、特定の企業(親会社)の広告制作を専属で担っている広告代理店です。
代表的な企業例は、以下が挙げられます。
- 株式会社ジェイアール東日本企画
- 株式会社京王エージェンシー
なおハウスエージェンシーの中には従来の業務を拡大し、グループ会社以外の広告を請け負うようになった企業もあります。例えば東急電鉄株式会社などの東急グループを親会社に持つ株式会社東急エージェンシーは、グループ会社以外の広告も精力的に手がけて活躍しています。
(4)アドネットワーク事業者、メディアレップ
アドネットワーク事業者やメディアレップは、インターネット広告の配信や仕入れを担う企業です。
まずアドネットワーク事業者は広告主のニーズに合わせて、インターネット上にあるサイトやSNS、ブログといった複数のWeb媒体をまとめたネットワークを作る事業者です。
代表的な企業例は、以下が挙げられます。
- Google LLC
- ヤフー株式会社
一方メディアレップ(メディア・レプレゼンタティブ)は、インターネット上の広告枠を各Web媒体から仕入れ、広告主や代理店に販売しています。以下が代表的な企業例です。
- 株式会社CARTA COMMUNICATIONS
(5)媒体
広告を掲載できる何らかのメディアを「媒体」と言います。代表例としては、テレビやラジオ、新聞、雑誌を合わせた「マスコミ4媒体」が有名です。
そのほか、Webサイトや電車内の車両広告、屋外広告、チラシ、DMも媒体に含まれます。
広告業界の市場規模と動向
広告業界は景気の影響を受けやすい業界であり、2020年ごろは新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、市場は縮小しました。しかし、その後、経済活動が平常に戻っていく中で、広告需要にも回復の兆しが見られます。
株式会社電通が発表した「2023年 日本の広告費」のデータを基に、広告業界の市場規模と今後の動向をまとめました。
2023年における日本の総広告費は過去最高値に
株式会社電通が発表した「2023年 日本の広告費」によると、2023年の総広告費は過去最高の7兆3167億円(前年比103.0%)でした。1947年以降、前年に続いて過去最高を更新する数値であり、広告需要の回復がうかがえます。
インターネット広告費が需要大。マスコミ4媒体広告費は前年を下回る結果に
中でも業界を牽引しているといえるのが、総広告費の45.5%を占めるインターネット広告(3兆3330億円・前年比107.8%)です。スマートフォンの普及に比例して消費者のインターネットの接触時間が増えていることを受け、広告主の多くがインターネットに広告を出すことで、消費者との接点を確保しようとしています。
一方で市場規模の縮小が見られるのが、新聞や雑誌、ラジオ、テレビを合算したマスコミ4媒体です。2023年の広告費は2兆3161億円(前年比96.6%)。大衆(マス)に向けた広告はパーソナライズしにくいことや、効果測定が難しいことなどが逆風となり、大衆に対してPRするマスマーケティングの需要が低下している現状がうかがえます。
広告業界のこれから
「2023年 日本の広告費」のデータからわかる通り、広告需要そのものは回復傾向にあります。しかしマスマーケティングで稼いでいくことが難しくなりつつあるため、業界のビジネスモデルにも変化が求められる時期といえるでしょう。広告業界の今後として、ポジティブな面と課題をまとめました。
広告業界のポジティブな面
- インターネット広告は今後も需要が高い
- イベントを企画して商品の宣伝につなげるなどの、新しいビジネスモデルの構築に精力的
- コンサルティングのビジネスに踏み込む動きが見られる
業界のポジティブな面としては、インターネット広告費の拡大が続いていることが挙げられます。また、イベント運営などの周辺領域に挑戦する企業が増えているところもポジティブな面といえるでしょう。例えば、多くの集客が見込めるスポーツイベントの企画・運営にかかわり、選手のユニフォームや幟(のぼり)などを広告枠として活用し、消費者に働きかけるといった試みも広まってきています。
加えて、クライアントの広告やマーケティングだけではなく、経営や事業のコンサルティングも含めて支援していこうとする動きも見られます。従来の広告業界は「広告枠を仕入れる」「広告を作って売る」という業務範囲・ビジネスモデルで活動していましたが、より企業の課題に寄り添い、企業活動において広告やマーケティングの上流である事業や商品のあるべき姿の企画・検討などからクライアントを支えるという業務範囲・ビジネスモデルへシフトすることで、収益の確保につなげようとしています。
広告業界の今後の課題
- デジタル分野に対応できる体制づくりが不可欠
- 競合企業が増える可能性がある
広告業界の今後の課題としては、「市場の需要の変化に、いかに対応していくか」という点が挙げられます。マスマーケティングの需要が低下し、インターネット広告の需要が高まる傾向は今後も続くことが予想されるため、デジタル分野の広告にも対応できる事業体制がないと経営が厳しくなる可能性があります。
また、広告業界が新たなビジネスチャンスを求めてイベントの企画・運営やコンサルティングに参入しつつあるように、コンサルティングに強い企業が広告業界に参入して頭角を現しつつあります。競合相手が増える中で、いかにクライアントに対して存在感を出していくかが広告業界の今後の課題といえそうです。
広告業界の主な職種と仕事内容
広告業界(広告代理店)の主な職種としては、営業、企画、クリエイティブ、エンジニアなどが挙げられます。それぞれの仕事内容をまとめました。
営業
広告業界の営業職は、広告の出稿主の開拓を担うポジションです。クライアントになってくれそうな企業の事業や商品の特徴をしっかりと学び、電話やメール、SNS、イベント参加、訪問・打合わせといったアプローチを駆使しながら接点を作り、広告を提案するチャンスを狙います。
企画
企画職は、営業が開拓してくれた広告主に対して、ニーズに合った広告の企画案を提案するポジションです。
まず市場分析や消費者調査を通して、クライアントにとって効果的なマーケティング方法や掲載媒体を検討します。次に、デザイナーなどのクリエイティブチームと協力しながら、商品のアピールポイントや、広告のデザインイメージ、「高級志向でアピールするのか、親しみやすい雰囲気でいくのか」といった売り方も含めて提案内容をまとめます。最後にクライアントにプレゼンを行い、成約獲得につながるよう尽力します。
クリエイティブ
クリエイティブは、広告のデザインや文章といった「広告の中身」を作る人たちです。商品の魅力などを文章にまとめるコピーライターや、商品のパッケージやパンフレットなどのデザインの検討・制作などにかかわるデザイナーなどが該当します。ほかにも、映像の制作スタッフや、広告制作の進捗を管理するディレクターなどのポジションも存在します。
エンジニア、データアナリスト、データサイエンティスト
広告出稿前に市場データを踏まえて消費者のニーズを分析したり、出稿した広告が消費者にもたらした効果を踏まえて表示方法を改善したりするなど、広告に関する分析や運用を行うのがエンジニアやデータアナリスト、データサイエンティストといった職種です。「広告は効果的に届いたのか?」「結果的にどんな層のお客さまが購入したのか?」といった分析を行うことで、より良い広告出稿につなげていきます。
広告業界で強みになり得るスキル、能力は?
広告業界には営業や企画、クリエイティブ、エンジニアといったさまざまな仕事がありますが、共通しているのは「クライアントの商品を魅力的に伝える」という点です。よって、以下のスキルや姿勢があれば強みになりやすいでしょう。
- 商品や人、トレンドに対する好奇心
- コミュニケーション力
- ロジカルシンキング
あらゆるものへの好奇心が仕事の助けになる
広告業界の仕事は「クライアントの商品を魅力的に伝えること」なので、お客さまの商品を正しく理解しようとする好奇心や熱意が必要です。また、「こういうアピールをされたら、人はどう動くのだろう?」というように、人に対する好奇心があれば、広告のPRを考えるときにも役立ちます。AIの活用といった技術革新が進む業界でもあるため、新しいテクノロジーに興味を持って学んでいく柔軟さがあれば、現場の変化にも対応しやすくなるでしょう。
「自分の考えを伝える力」を磨こう
広告の制作現場では「なぜこの制作物がクライアントにとって良いといえるのか」をプレゼンできる能力がないと、制作物が魅力的でもクライアントに選んでもらえない可能性があります。人を動かすコミュニケーション力や、論理的に自分の考えを伝えるロジカルシンキングのスキルがあれば、仕事を進めていく上で大いに役立つでしょう。
入社後からでも身につきやすいのは「調整力」
広告は、デザイナーやコピーライター、ディレクターといったスタッフ同士はもちろんのこと、広告主とも擦り合わせを重ねながら制作を進めます。限られた納期の中で、多くの関係者の意見を聞き、クライアントにとって最良の広告に仕上げていくことを常に意識する仕事であることから、調整力は自然と磨かれやすいでしょう。
終わりに
就活生が知っておきたい業界事情や、業界で活躍している主な職種、強みになり得るスキルなどについてご紹介しました。
広告業界の仕事は上記でご紹介した通り「クライアントの商品を魅力的に伝えること」ですが、各社が得意としていることはそれぞれ異なります。大まかな業界の情勢をつかんだ後は各社のホームページをじっくり読み、OB・OG訪問やインターンシップ&キャリアなども活用しながら、志望企業への理解を深めていきましょう。
【2027年以降に卒業予定の方】
リクナビでは、気になる業種に絞ってインターンシップ&キャリアをチェックできます。
インターンシップ&キャリアや就活準備に役立つ情報をX(旧Twitter)でも発信中!
——————————————————

【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
——————————————————
※記事制作時の業界状況を基にしています
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。